月下の逢瀬

あたしはその騒ぎから顔を背けるように、窓の外へ視線をやった。

むくむくとした入道雲が滲んで見えて、思いのほかショックを受けている自分を知る。


理玖がいつか誰かを選ぶことくらい分かってた。
それがきっと、そんなに遠くない日だってことも。
でも、こんなにいきなりだなんて、考えてもみなくて。



『つーか、ムカつく。あれ、脅しじゃね?』


青空がやけに目に痛くて、机につっぷしたあたしの近くで、冷めきった声。
ぴくりとそれに反応したものの、あたしは顔を上げないまま耳をすませた。


『怪我させたんだから一生償えとか、怖いよねー。ドン引き!』


『あんなので付き合ってるとか言えるワケぇ? 理玖くんかわいそー』


怪我?
償え?


意味が分からないけど、どうやらそれは理玖と玲奈さんのことを指している会話だということだけは理解した。

理玖と玲奈さんの間には何かあるの?


腕の隙間からちらりと声の主たちを確認した。