月下の逢瀬

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中学二年の二学期初日。

夏休み気分の抜けない朝の教室に、ざわりとどよめきが起こった。


『うわ! 何、お前たち付き合ってたわけ!?』

『うそぉー。理玖くん、マジでぇ?』


手を繋いで教室に入ってきた二人に、クラスメイトの視線が集まる。
嬉しそうににこにこと笑う玲奈さんと、穏やかに微笑む理玖。


その姿を、あたしは教室の隅で見ていた。


『夏休み前から。な?』


玲奈さんを見下ろして言う、理玖のその口調は優しくて。
女の子にはいつもぶっきらぼうな喋り方しかしたことない理玖が、と益々ざわめきは大きくなった。


『ちょっとぉーっ。玲奈ってばこっちに来て説明してよー』


玲奈さんと仲のいいグループの女の子たちが、大きく手招きする。
かと思えば、理玖の親友の日薙(ひなぎ)くんが理玖に体当たりをして笑う。


『理玖ー! てめ、黙ってんじゃねーよっ』


『悪いな。でも、まあいいじゃん』


理玖が悪びれずに笑う。


『ちっくしょ。抜け駆けじゃねーかよ。
あーっ、オレも彼女欲しーっ!』


日薙くんの叫びに、くすくすと玲奈さんが笑った。