月下の逢瀬

「宮本センパイと同中のコから聞いたんです！
宮本センパイがあの人に酷い怪我させたって……。だから、それを盾に宮本センパイに付き合ってっもらってるって！
それが本当なら、絶対許せないっ」


形のいい瞳に、悔し涙が滲んでいた。

ばくばくと激しく脈打ちだした心臓の辺りに無意識に手をあてたあたしは、その瞳から顔を逸らした。




『真緒の背中は、綺麗だな』




いつかの暗がりの中、肌を滑るように唇を這わせていた理玖が、小さくぽつりと呟いた事があった。

ばしゃりと冷水を浴びせられたように、体が震えたのを覚えている。


『玲奈さんは……』


絶対に口にしてはいけない言葉を飲み込んで、あたしは理玖を求めるように体を捻った。
見上げた顔の表情は分からなかった。


『……理玖。好きだよ』


何と言っていいのか分からなかったあたしの、精一杯の言葉。
理玖は静かに唇を被せてきて、でもあたしをきつくきつく抱きしめた。





理玖がそれを口にしたのは、それきりだった。