月下の逢瀬

「……とりあえず、帰ろ」


気持ちが張っていた反動なのか、少しぼんやりしながら昇降口へと向かった。
人の少なくなったげた箱で靴を履いていると、


「あの。椎名センパイですよね？」


とおずおずとした声が背中にかかった。


「え？」


振り返ると、見知らぬ女の子が二人、目配せを送りあいながら立っていた。


「あたしに何か？」


「えっと！　宮本センパイのことなんですけどっ」


長い茶色の髪を、綺麗に巻いた女の子が、頬を少し赤らめながら言った。


「椎名センパイは、幼なじみなんですよねっ？」


「あ、うん。でも今はそんなに仲は」


「宮本センパイって！　久世センパイに負い目があるから付き合ってるって、本当ですか！？」


あたしの言葉を遮るように、もう１人の子が言った。
ショートヘアがよく似合う、猫みたいなシャープな顔立ち。アーモンド形の黒い瞳はまるであたしが元凶かのように睨みつけていた。


「え……？」


その瞳の鋭さよりも、言葉があたしの胸を深く刺した。