「……失礼します」


あたしはそれだけ言い残し、そのまま車を飛び出した。
ドアを閉め、振り返らずに走る。


コンビニを通り過ぎ、家への一本道に曲がったところで、足を止めた。


はあー、と深呼吸する。
吐いた息は白く、すぐ消えた。


今起こったことがいきなりすぎて、頭がまとまらない。

先生の行動、気持ち
バレてしまった理玖とのこと。

すぐに頭を整理するのは、難しすぎる。
これから、どうしたらいいんだろう?


理玖に相談する?
ケータイを取り出して、二つ折りのそれを開く。
メール作成画面にして、理玖の名前を出したところで、指が止まった。

理玖に相談は、できない。
秘密の関係だったのに、自分の無防備さで人にバレてしまったのだ。
これは、あたしのせい。

それに、バレたのなら仕方ない、と理玖がこの関係を解消してしまったら?
理玖は、失いたくない。


ぱくん、とケータイを閉じる。

どうしたらいいんだろう。


心の置き場がなくて、見上げた空には、欠けた月が姿を現していた。