月下の逢瀬

2コールほどで、柔らかな声がした。


『どうした、真緒?』


耳触りのいい、優しいそれに、ほっとする。


「たいしたことじゃないの。桜が、すごく綺麗だったから……。
まだ、お仕事の話してる?」


『今は大丈夫。桜見に行ってるの?』


「うん。優月と近くの公園まで」


『優月、喜んでる?』


「向こうは散ってたでしょ? だから驚いてた」


次第に気持ちが落ち着いてゆく。
波立った心が静まるのを感じて、あたしはそっと胸を撫で下ろした。


『明日の朝、迎えに行くから。
優月が起きる前には行きたいな。

せっかく一緒に帰ってきたのに、放っておいてごめんな』


「お仕事についてきたんだもん。仕方ないよ。
早く迎えに来てね」


『うん』


電話を切って、優月の頭を撫でた。


「明日、優月が起きたらパパがいるよ」


「ほんとう? わーい」


ここを発ったら、またしばらくは、帰省するのをやめよう。
両親は寂しがるかもしれないけど、今までのように福岡まで来てもらえばいい。

もう心を乱したくない。




なのに。