月下の逢瀬

理玖にとってのあたしは、もう終わった過去の一つ。
そうなるようにしたのは自分自身じゃない。

何より、理玖には玲奈さんがいるのに。


それなのに勝手に慌てて、うろたえてしまった。
目があっただけで、向かいあっただけで、昔に立ち戻るなんて。




「……優月、ごめんね」


少し先を歩く幼い背中に言った。

あなたと、パパとの大切な生活。
その幸せを守りたいと思ってたのに、気持ちを揺さぶられてしまって、ごめん。

三年間の生活、それはかけがえのないものなのにね。


明日、少しでも早くここを発とう。

さっきのは、ほんの気の迷い。
散ったはずの桜が乱れる、懐かしい町並みがみせた、白昼夢のようなものだったんだ。

ここを離れれば、福岡に戻れば、きっとまた平穏の日々があるのだから。


ポケットに入れていたケータイを取り出して、晃貴に電話をかけた。