「つわりが落ち着いたら、食欲がわいたな」


ふ、と晃貴が笑う。


「うんっ」


頷くと、握っていた手がするりと抜けて、指を絡めるように握り返された。


「晃貴さん?」


「いや、ごめん、大人げなかったな、と思って」


ため息を一つついて、晃貴はあたしを見た。


「本音言うと、さっきはちょっと焦った」


「え?」


「このタイミングで来るなんて卑怯だろ、なんて」


冗談めかして肩を竦める。
その仕草や口ぶりは明るかったけれど、それはきっと本心。

だからこそ、あたしはあっけらかんと答えた。


「やだ。意外にかわいいところがあるんだ」


「かわいい、って。しかもやだ、か」


「あ、気にしたの?」


くすくすと笑う。
と、晃貴と目があって。


「だいじょうぶだよ。もう、終わったんだから」


そう。もう終わったんだから。

自分に言い聞かせるように言った。