月下の逢瀬

・.
  ・


コン……コン、とゆっくりドアをノックした。
握ったこぶしが震える。
逃げ出したくて仕方ない衝動をどうにか堪えた。


『どう……ぞ』


病室の奥から、小さな声。
一人なのだろうか。

一度、ぶるりと頭を振って、あたしはドアをゆっくりと開けた。


玲奈さんのいる、病室のドアを。



「失礼、します」


あたしがさっきまでいた部屋と同じつくりの、一人部屋の病室。
窓際のベッドに、玲奈さんが横たわっていた。


「椎名ちゃ……」


驚いたように身じろぎする玲奈さんの顔は、形が変わるほどに腫れていた。
青黒く染まっているところまである。
その無惨な様子に、唇を噛んだ。


「何しに……来たの」


声は弱々しく掠れ、口元の腫れのせいかくぐもって聞こえた。


「こんな状態のあたしを、笑いたいわけ? それなら好きなだけ笑えば」


「ごめんなさい」


ぺたりと座り込み、あたしは深く頭を下げた。


「あの時、あたし玲奈さんが憎くなって、酷いこと言った。ごめんなさい!

許してなんて都合のいいこと言えないけど……」


「だけど、理玖をちょうだい、とでも言うの?」