「佐和がいなかったら、俺は椎名を、お腹の子供を助ける存在になれなかったかもしれない。
椎名に頼られる男になれなかったかもしれない。
今、何も生み出せなかった、背徳だけで成り立っていた佐和との関係にも、ちゃんと意味があったんだ、とそう思えるんだ。
あの恋愛は無駄じゃない。
そういう意味では、俺は佐和を忘れられないと思う。
だけど今、俺が愛しいと思うのは、幸せにしたいと思うのは、お前だ」
「そんな……だって……」
先生は本当にあたしを好き、そう言うの?
でも。
「でも、ダメだよ……。
このお腹の子は、理玖の子なんだよ?
それに、あたしはまだ……理玖を忘れられない」
「これからゆっくり、俺だけを見るようにさせるからいいさ。
時間はいくらでもあるんだ。
お腹の子供ごと、椎名のことが好きだ。
お前の子供なら、絶対に愛せる。
なあ。もう、俺にしとけよ」
目の前に、手を差し出された。
「この手をとれ。絶対幸せにしてやるから」
張り詰めたような先生の顔に、笑みが浮かんだ。



