月下の逢瀬

『久世の娘が婚約者の浮気で自殺未遂だなんて、こんなみっともない話はないわ。
しかも下手したら体に障害が残ってしまうなんて。
本来なら婚約を解消して、それなりの違約金を頂くところです。

でもまあ、私だって親ですもの。
娘が命をかけてまで望んだ男の子ですから、今回は目をつぶります。

今後はこのようなことをしない、
玲奈を支えて生きていく、
というのであれば、これからも久世グループはお母様の会社の支援をさせて頂くわ』


どうかしら? と俺の顔を覗き込んだ母親は、玲奈によく似た、けれど冷たい笑みを浮かべていた。

俺が玲奈のそばにいることを選べば、会社は存続する。
選ばなければ……。


黒い瞳が、俺の心の揺れを見逃すまいとじっと見つめる。


『どうかしら?
お父様の残した大切な会社ですもの。
社員の方たちも、あなたの大事な家族でしょう?
会社がなくなるなんて、よくないわよね。


それなら、答えは一つ、でしょう?』


隙のない赤い唇が紡ぐ言葉が、ゆっくりと俺の頭を頷かせた。


『玲奈……さんを裏切るような真似はしません』


『そう。正解ね』


満足げな声が、うなだれた頭の上から降ってきた。