月下の逢瀬

「どちらの手を……か」


ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。


「…………決まって、んだよ、もう」


「え?」


「どちらを選ぶのかなんて、決まってんだ」


何故だか、笑いがこぼれた。
そんな俺を、片桐が訝しそうに見た。


「宮も……」


と、ケータイが震えた。


電源を切り忘れていたのか、と取り出すと、母親からのメール。



『玲奈ちゃんが意識を取り戻したから、早く戻ってきて! 混乱しているみたいで大変なの』




「……玲奈の意識が、戻ったよ」


「本当か?」


ケータイをポケットに押し込んで、片桐に向き合った。


「俺、玲奈のところに行くよ」


「……待て。それは、久世を選ぶって意味も入ってるのか?」


声が低くなり、暗がりでも瞳に鋭い光が宿るのがわかった。


「……ああ、そうだよ」


「椎名のことを好きなんだろう?」


「好きだけじゃ、どうにもならないことだってあるよ、センセ」


振り返って、眠る真緒を見た。
淡い光を浴びた横顔。


「俺に選ぶ権利なんて、ないんだ」