月下の逢瀬

俺はどこで、玲奈と離れていればよかったんだろう。
どこであいつを拒絶していれば、こんな未来を避けられたのだろう。

優柔不断に、何もしないままここまできてしまった自分が。
今更それを後悔してしまう自分が、途方もなく情けなくて。


「かっこわり……」


テーブルを苛立ち紛れに拳で殴る。
鈍い音が静かな空間に響いた。


「……病院の備品は大切にしてくれないか、宮本」


柔らかな声に振り返ると、片桐が立っていた。
学校帰りなのか、スーツ姿のネクタイは緩んでいて、
少し疲れたように壁にもたれていた。

そうか、この病院は片桐の実家だって聞いたっけ。


「センセ、なんか用事?」


「まあね。宮本、ちょっと付き合ってくれないか?」


「何? 今、一人でいたいんだけど」


「……この下の階の病室に、椎名がいるって言っても?」


「は?」


真緒が?
ずいぶん前に走り去っていった背中を思い出す。
もうとっくの昔に帰り着いている時間だろうに。


「助けてって連絡がきてね。俺が連れてきた」


「どういう……ことだよ?」


「切迫流産しかかってた。無理しすぎた、椎名は」