月下の逢瀬

母親が、傷を負った玲奈に価値がないと言い捨てたのは、本心からの言葉だったようだ。


『久世の家にこれ以上迷惑かけないで』


玲奈の母親はそれだけ言って、俺たちに一切口出しをしなかった。

いや、俺の素性は調べてたんだろうな。

付き合って二年を過ぎた頃だったか。
うちの店が傾きだしたタイミングを見計うように、援助を申し出てきた。



玲奈との婚約をちらつかせて。



その頃には、俺は玲奈から全てを聞いていた。


どうして玲奈は家族から疎まれているのか、ということを。


だから、何故こんなにも早く娘の行く末を決めたがるのかも、わかっていた。


『理玖、あたしから離れたりしないよね?』


返事を躊躇う俺に、玲奈は不安そうに寄り添った。
もう、後戻りできないところまできている、と思った。


玲奈の秘密を知り、その孤独を知り、それでも玲奈から離れずにいた俺に、今更玲奈を拒否することはできなかった。


同情から始まった関係を、ずるずると続けていた俺が悪い。
だけど、玲奈と離れるということは、玲奈を再び孤独にさせるということ。

そんな真似は、できなかった。