月下の逢瀬

『フェンスの取り替え作業中で、隔てるものはなかったようです。表示等もないようでしたので、学校側に過失もあるかと』


いつの間に入ってきていたのか、スーツ姿の男が読み上げるように言った。


『あの、その件に関しては校長がですね』


焦ったように言う担任を軽く手で制して、


『ああ、大きな話にするつもりはありませんのよ。
フェンスがないから落ちただなんて、子供じゃあるまいし。

玲奈、あなたのミスでしょう?』


そう言った母親は、少し苛立っているようだった。


『……はい、そうです。あたしが、遊んでて気付かなくて……』


『馬鹿な子。自分の価値をこれ以上ないくらいまで落としてしまって』


『ごめん、なさい』


静かに責める声は怒りが滲んでいた。
玲奈が怪我した心配など、全くしていない。

傷痕が残ることによって、娘の価値が下がったなど、本気で思っているんだろうか。


『久世の恥よ、あなたは。何の役にも立たないんだわ』


俯せて寝ていた玲奈が、枕に顔を埋めた。震えた肩は、泣いている。