月下の逢瀬

『これから、知ってくれたらいいよ。だから……お願い』


返答に困ったとき、病室のドアが開いて担任が顔を覗かせた。


『久世、お母さんが到着したぞ。
どうぞ、こっちです』


玲奈の顔色が変わり、ぎゅ、と瞳を閉じた。
その様子に訝しさを感じつつ、俺は病室の隅に移動した。


担任の先導で、母親らしい女が入ってきた。
高そうな服に、綺麗にセットされた髪。
メイクした顔はルージュが引かれて、香水の香りが部屋中に漂った。

大怪我をした娘の病院に駆け付けた、というような焦りは微塵もなくて。
完璧に整えられていた。


『玲奈、起きてるの?』


投げやりに聞いた声は冷たくて。
瞼を持ち上げた玲奈は、さっきとは変わって表情を無くしていた。


『……はい』


『傷痕、残るらしいわよ。酷いんですってね。
どうして怪我なんてしたの?』


『プールサイドにいて、それで……ゴミ捨て場に落ち、て……』


玲奈の声は小さくて、痛みのせいか掠れていた。