月下の逢瀬

「え、と。はい、そうします。
あの、保健の先生は?」


頷きながら聞く。


「ああ、佐藤先生は急用で帰っちゃったんだよ。で、たまたま授業がなかった俺が留守番ってわけ。
授業が終わるまで、10分くらいあるから、それまでゆっくりしてるといいよ



先生はそう言って顔を引っ込めた。


「はい。すみません……。

っ!?」


衝立の向こうに頭を下げてから、ブラウスのボタンが一つ外されているのに気がついた。


何で!?


先生が外したんだろうか。

鎖骨辺りには、一昨日の晩に理玖がつけたキスマークがいくつもある。
それを隠すためにボタンを留めていたのに。

もしかして、見られた?


あたしは慌ててボタンを留めた。

大丈夫、だよね?
一つ外したって、簡単には見えない、し。

それに、先生の態度は普通だったし、気付いてないってことだよね……?


衝立の向こうの気配を窺うけど、紙がめくられる音しかしていない。


……とりあえず、知らないふりをしてよう。


仮に見られてたとしても、キスマークなんて、先生くらいの大人の男になれば見慣れたものだよね。

別に、大したことじゃない。
キスマークつけられた、とか更衣室でもよく聞く話だし。