月下の逢瀬

誰もいなくなって、あたしはため息を一つついた。


「何、あれ……」


二人分の紙コップを、テーブルの端に押しやって、突っ伏した。


初めて知ることもあって、何から考えたらいいのかわかんないけど。

琴乃ちゃんも、笹野さんて人も、多分玲奈さんの両親も、玲奈さんのことをまるで心配していない。

そのことが一番、頭を占めていた。



『姉は家とは関係ない立場です』


琴乃ちゃんがそう言った時、顔には侮蔑の色があった。
自分を跡継ぎと呼んだ時には、逆に誇らしげで。


何らかの事情で、玲奈さんは姉なのに跡継ぎじゃなくて、それで大切にされていない、のかな?
琴乃ちゃんの言った台詞を思い返しながら、考えた。


笹野さんって人は、多分玲奈さんの家の秘書みたいな立場だよね。
その笹野さんは、玲奈さんの友達だと紹介されたあたしを、『そんなこと』だと言い捨てた。


家族だけじゃなく、それを取り巻く人にまで疎かにされるような事情って、何?


わからないけど、でも。

何となく、玲奈さんが理玖に深く愛情を注ぐ理由は、わかった気がする。