月下の逢瀬

「ごめ……、も……、いい。あたし一人で考えるから……」


先生と話すことは、辛すぎた。
今はこれ以上否定の言葉は聞きたくなかった。


ううん、先生に甘えたあたしが、悪い。


ドアを開けようとして、その手を掴まれた。


「待て。宮本に言わないで、一人でどうするって言うんだ?」


「まだ……わかんない。いっそのこと、赤ちゃんと一緒に死ぬほうが」


言い終える間もなく、頬を打たれた。
乾いた音に、痛みよりも驚きが先立った。

「そんなこと、絶対口にするな」


低い、張り詰めた声。
あたしを見る瞳は厳しくて、怒りに満ちていた。


「二度と言ったらダメだ」


じんじんと痺れる頬に手をあてた。


『死ぬ』
先生が、あたしの言葉で佐和さんを思い出したのだと分かった。


「……によ」


どうにか発した声は震えていた。


「何よ……何よ! あたしと佐和さんを重ねて見てるくせに!
あたしを先生の恋愛のやり直しに使わないでっ」


先生はあたしの向こうに佐和さんを見てるから、優しいだけだ。
先生に優しくされるたびに、どこかでそう思っていた。
似たような状況のあたしに、亡くなった佐和さんを重ねてる。