月下の逢瀬

「椎名、俺だけど。どうしたんだ? まだ具合よくならないのか」


心配そうな声。
ああ、そうだ。今日倒れたとき、耳元で聞いたのはこの声だった。


「せんせ……ぇ」


新たな涙が溢れて、声にならない。


「どうした? 泣いてるのか」


「っく……。うー……」


言葉は嗚咽に変わって、何も話せない。

話そうにも、一体何から話せばいいの?

先生に、理玖の子を妊娠したって言って、どうするの?

他の男の人の子を妊娠しているあたしが、先生に優しくしてもらうの?


ううん、それは余りにも身勝手すぎる。



「椎名。椎名、聞いてるな? 
いつものコンビニまで出れる? 今から行くから」


「いやっ!! あ、会う理由、無いも……っ」


「あるよ。椎名が泣いてる、それだけで十分だろ」


「いやっ!」


会いたくない。
どんな顔して会うの。


「とにかく、すぐに行く。待ってるから、おいで」

必ずだよ、と言って電話は切れた。