月下の逢瀬

「大丈夫、だよ。
理玖が、あたしのこと、少しは想ってくれてるって、分かったから」


あたしは雫を残した理玖の髪をそっと撫でた。

こんなに濡れるまで、あたしの部屋の前にいたんだよね?
別れを切り出すのを、悩んでくれていたんだよね?

それは、あたしのことを、想ってくれてると思ってもいいでしょう?
別れを躊躇うくらいには。


「こうして、来てくれただけで、もういいよ。
理玖、大好き」


前髪に残った雫が、あたしの頬に落ちた。

「真緒……」


「大好き、ずっと。理玖と夜を過ごせて、幸せだった」


声が震える。
笑顔が強張る。

心が嫌だって叫んでる。


「ごめんね。あたし、理玖の背負ってるもの、重たくするばかりで軽くできな……っ」


息ができないくらい、強く抱きしめられた。


「そんなこと、ねーよ」


強く、強く。


「真緒、ごめんな」


そして、絞り出すような声。