月下の逢瀬

「っく……。理玖、ごめ、ん……っ」


頬を幾筋も伝う涙を、慌て拭った。
泣いちゃいけないと、決めていたのに。

理玖の前では、絶対泣かないと。
けど、優しい口づけが辛くて。


「ご、ごめん。もう、泣かないから」


唇の端を無理矢理引き上げて、笑みを作った。


「えと……、わかってるよ。
今日で、終わりなんでしょう? 玲奈さんにバレたら、おしまいだもんね」


「真……っ」


「今日、言われた。もし、隠れて関係を続けていたら、許さないって。
このまま続けてたら、大変だもん。おばさんにだって、迷惑かけちゃう。
お店、軌道に乗ったって喜んでたもんね」


「真緒」


「いつかこういう日が来るって、わかってたし! ちょっと、早かったなって、思うけどさ。でも、覚悟してたんだ。
だから、大丈夫、うん」


「真緒!」


早口で言うあたしに、理玖が低く怒鳴った。


「……本当に、大丈夫なのか」


「……だい、じょうぶだよ」


見つめる瞳は真っ直ぐにあたしを映していて。
けれど切なげに歪められていた。