「理玖! 風邪ひ」


「玲奈に、なんて言われた?」


「……っ!」


静かに問うた声。
反応したあたしは、暗がりに理玖の瞳を見た。

呼吸が混じるほど近く。
真っ直ぐにあたしを見つめる瞳。


「なんて、言われた?」


「……理玖と、別れるように。
理玖は、玲奈さんの……ものだから、って」


途切れ途切れ、躊躇いながら答えると、綺麗な瞳が歪んだ。


「真緒、俺」


「待って! 今はっ、まだ聞きたくな……、ねえ、何でこんなに濡れてるの!?」


理玖の背中に腕をまわして、驚いた。

濡れそぼった背中。
理玖の体は、酷く冷えていた。

こんなになるまで、外にいたの? 何で?

顔を覗きこめば、髪から雫が落ちている。


「寒いでしょ? 今バスタオルを……」


「いい。いらない」


ぎゅう、と抱きしめる腕。
熱を帯びた唇が、首筋に落ちた。


「真緒。真緒」


口づけの合間。
優しく呼ぶ、あたしの名前。

体は冷たいのに、理玖の唇は熱くて。
熱を残すような口づけは、なぞるようにゆっくりと、頬にたどり着いて、止まった。

「真緒……」