月下の逢瀬

玲奈さんに気付かれた。
何で?
どうして?

手がかたかたと震えた。
とにかく、行かなくちゃ。
そして、もしごまかせるようなら、ごまかさないと……。


混乱する頭をぶるりと振って、先を行く玲奈さんの背中を追った。



玲奈さんは、人気のない別棟へと歩いて行く。
この棟は、普段は余り使われない教室ばかりがある。
その中の一つ、和作法室の前で足を止めた。


「ここだけ、いつも施錠されてないの」


独り言のように行って、馴れた様子で中に入る。
畳が敷かれたそこは、茶道や華道の道具が無造作に置かれていた。
隅に重ねてあった座布団を二つ向かい合わせに置き、すとんと座った玲奈さんは、
入口で立ち尽くしていたあたしを手招きした。


「誰かに見つかると面倒だから、早く入って」


「あ、うん……」


しん、と静まり返った廊下をちらりと振り返り、
あたしはドアを閉めた。

玲奈さんの目の前に座る。
膝がくっつくのではないかというくらいの距離。


「勿体振るのって性格じゃないから、はっきり言うけど。

理玖に手を出さないでくれる?」