月下の逢瀬

溜め息。

あの時、先生の話を聞くんじゃなかった。
先生が語った佐和さんの話は、聞くのが辛かった。
大好きな人のために、自分を隠す。
先生に言われなくても、自分のことと重なっていた。


『宮本が椎名を選ぶ日はくる?』


くるわけない。
そんな日は永遠に来ない。
あたしは理玖の横に立てない。


夜空を見上げる。
あたしはこれから先、このままの関係を続けていけるだろうか。
納得して、辛さも理解して選んだ道。
理玖のそばにいられるなら、それだけでいいと望んで選んだ道。
だけど。


「欲張り、になっちゃったのかなあ……」

ぽつり、と呟く。
あたしは、欲張りになってしまったのかな。

理玖とただ一緒にいたくて、だから納得していたのに。
このままずっと、こんな立場にいることを辛いと思う。
明るいところで、理玖と寄り添いたいと思う。

理玖の側にいられるだけで幸せだと思っていた、あの日の夜に戻れたらいいのに。


先生の話を聞かなければ、きっとこんなことを思わなかっただろう。
けれど、遅かれ早かれこの気持ちにたどり着いただろう。