月下の逢瀬

逸らさない視線が痛い。
それよりも、先生の言葉が痛かった。


『宮本が、椎名を選ぶ日は来るのか? 久世じゃなく、椎名の手をとる日は来るのか?
ないのなら、早く離れたほうがいい。
椎名は椎名の手をとる男を選ぶんだ』


『……そん、なの。先生に関係、ない』


『ある。俺は椎名が欲しい。宮本から奪いたい。

椎名、俺のとこにおいで』


先生はにこ、と笑った。
少しぎこちない笑みは、先生も緊張しているのかもしれない、と思った。

それより、今、何て?


『俺は、椎名を大切にする。泣かさない。
椎名を、太陽の下で抱きしめられる。


だから、宮本はもう止めな? おいで、俺のとこへ』


す、と手を差し出された。

男の人の、ごつごつした骨張った指先。
あたしよりも色黒な手。




……この手をとったら、あたしは幸せになれるんだろうか。
バカみたいな考えがよぎる。

早く、首を横に振らなくちゃ。
あたしは、理玖がいいのだ、と。

けれど、あたしは躊躇っていた。


先生の手を見つめる。