月下の逢瀬

その日の夜、家族が寝静まった0時過ぎに窓が音をたてずに開いた。


『こうして真緒の部屋に来るの、何年ぶりかな』


カーテンの陰から、理玖はするりと姿を現した。

小学生の頃まで、理玖はいつも窓からあたしの部屋に入ってきていた。
夜中に、探検だなんて言いながらやって来たこともあった。

あたしの部屋は一階の、裏庭に面していたから、小学生でもすんなりと入れたのだ。


数年も時は経ってしまっていたというのに、理玖は馴れたようにベッドに腰掛けた。
離れたところに立ちつくすあたしに、くすりと笑ってみせる。


『時間経ったし、考え変わったりした?』


二番目っていう話、と続ける。
それをあたしは首を横に振って答えた。


理玖の方が、気が変わったりしないだろうかと思っていた。
気まぐれで言ったのではないかと、今理玖が姿を見せるまで不安だった。


『そうか。なら、いい』


『……理玖は、嫌なの?』


小さく問うた声は、少し震えていた。
不安は緊張となって、体全体を強ばらせていたのだ。


切れ長の、茶色がかった瞳。
磨かれた硝子細工のようなそれには今、あたしが映っている。
その中に、ずっとあたしを捉えていてほしい。
ともすればキツく見える、刺すような眼差しで、あたしを絡めとって。


お願い。