月下の逢瀬

『こんなの残すなよっ!!』


ケータイを投げつけて、叫んだ。
勝手に溢れ、頬を伝うものが、厭わしかった。

何だよ、これ。
一体何なんだよ。

ごめんなさいって、それだけで俺を置いてくのかよ。


『あんたにとって、俺はそれだけかよ……っ!!』


寝顔なんてもんじゃなく、兄貴なんかじゃなく、


連れてくなら、俺にしろよ……。


床に跪いて、嗚咽する。
自分が何を言ってるのかも分からない、ただの獣のような叫び。


佐和が好きなんだよ。
佐和じゃないとダメなんだよ。

俺が、小さな頃から見ていたのは、佐和だけなんだよ。



数時間前まで、しっかりと抱き止めていたはずなのに。
長い髪を絡ませて、柔らかな肌に指を這わせて。
確かに繋がっていたのに。


彼女はすり抜けて、逝ってしまった。
俺を置いて。
間抜けな寝顔だったろう俺を置いて。


『憎い。憎いよ、佐和。どうせなら俺も殺して逝けよ』