月下の逢瀬

『真緒といられる時間は、夜くらいしかない。昼間は真緒のことは見ない。
それでもいいのか?』


『構わない。だから、理玖の二番目にして』


理玖の視線が、何か考えるかのように宙をさまよった。
それから、乾いた唇を舌で湿らせてから、あたしをしっかり見て言った。


『じゃあ、真緒には俺の夜の時間をやる。その代わり、昼間は全く関係ない、ただの同級生だ』


あたしはゆっくり頷いた。


『……今晩真緒の部屋に行くから、窓開けてろ』


『分かった』


『…………っ』


何か言いかけた理玖が、きゅっと唇を噛んだ。
厳しく注がれていた視線を、ふいっと逸らす。


『じゃあ、今日の夜。真緒も、早く帰れ』


そう言い残して、理玖は図書室を駆け出して行ってしまった。


取り残されたあたしは、大きな音をたてて閉まった扉を見つめていた。