その2
麻衣



今朝は4時過ぎには目が覚めた

私はいつも、日常と現実の延長線で夢を見る

夢の中でも現実の昨日までをなぞっている

その上で、さほど現実とかけ離れないんだ、私が見る夢は

でも、昨夜はちょっと違った

妙に暗示的だった

で…、昨夜の登場人物は亜咲さんと横田競子

場所は逆髪神社下だった



...



私と横田は無言でにらみ合っている

お互い、正面を向いて…

亜咲さんは、傍らで愛車のナナハンに半腰でもたれかかりながら、少し笑ってる

そして亜咲さんは、私ら二人に大きな声を投げかけた

それはどこか、挑発的なトーンだった

「どうした、遠慮すんな。だけど、本気でやりあえばどっちも死ぬぞ…」

私と横田は同時にその声の主を振り返った

だが、亜咲さんはもうバイクでこの場を去っていた

私らの視界には、亜咲さんの後ろ姿が映っている

颯爽とバイクにまたがった、黒い革ジャン姿の背中

不思議なことにエンジン音はしない

まるで無声映画のラストシーンのようだった


...




そして、私たち二人は亜咲さんを追いかけ、全力で走った

でも、変なんだ

目に映ってるのは、真正面のバイクに乗った亜咲さんなんだけど…

視界には脇で走っている横田がはっきりと見える

全身も顔の表情も、すべて…

それはヤツも同様だった

二人はただ、全力疾走した

このカモシカ女は陸上部で足は早い

背も私より高いし、コンパスのサイズは違い過ぎる

それでも私は、必死にコイツの横を走っている


...



不思議なことに、ヤツとは走りながら心で会話してるんだ

私たちは走っているうちにわからなくなった

亜咲さんを追いかけているのか、それとも、隣の相手と競争しているのか…

コイツにだけは負けたくない

一方で、どこまでも一緒に走っていたい

そんな、相反する心の併走…

それがお互い同じことを言ってるんだ…

気が付くと、二人は走りながら涙を流して叫んでいた

「お姉ちゃん!」


...



亜咲さんは明日、神戸に発つ

おそらく、横田の入院している病院には寄っていることだろう

あのカモシカ女と亜咲さんが交わす会話は頭に浮かぶよ

私だってそこに交じって、素直に別れを惜しみたいさ、ホントはね


...



亜咲さん、さようなら

それから、ごめんなさい

魂に誓ったはずのあなたと交した”約束”、すでにほっぽり投げてます、私