その7
麻衣



今日、カモシカ女と真正面から対峙した

短い時間だったが、そのやり取りはまさに丁々発止だった

そのあと、私は今まで体験したことのない感情に支配された

それは、一種のカルチャーショックだったと思う

そして理解できた

私は”部外者”であるあの女に、なぜ危害を加えたのか…

あの日、亜咲さんが一緒だった茶店の前で、初めてアイツと会った

その際、あの女から何かを感じたのは事実だ

亜咲さんの家の隣に住んでいて、妹のようにかわいがられていたヤツへの嫉妬心は確かにあった

だが、それだけではなかった

むしろ、亜咲さんは、きっかけに過ぎなかったんだ

今日、それがはっきりした


...



横田競子は、いずれ闘う相手、いや宿敵なんだと悟ったよ

だが、抱く感情は、相川や狂犬娘へのそれとは明らかに違ってた…

そもそもヤツは、今回の紅子さんとの”共同作業”によって、一挙に勇名を得た

南玉連合メンバーのみにとどまらず、その外部にまで…

しかも、前執行部の刃根・相川ラインとの連携があったのは見え見えだし、南玉の主だった連中は暗黙している

となれば、もはやあのカモシカちゃんは、南玉のフレーム外にいるとはいえ、公然たる私の障害に他ならない

ならば、やるっきゃない

そういうことになる

すぐにヘタれば”お互い”楽だが…

アイツと私じゃ、そうはいかないみたいだ

今日、ヤツとの対峙でそれを確信した


...



それにしても…

アイツ、不思議なヤツだ…

真っ先に思ったのは、今日、面と向かったヤツの目が澄んでいたこと

気に入らないったらありゃしないよ

ヤツが私に迫ったのは、亜咲さんの生きざまに対する私の姿勢だった

でもさ…、私があの襲撃に関与していたとしたなら、自分をケガで入院させたことに恨みを持つのが普通だ

だが、あの女ときたら、そんな個人的感情など持ち合わせていなかった

あいつの私に対する怒りは、自分を傷つけたことなんかじゃない

亜咲さんのプライドに対してなんだ

自分はこんなに痛い思いをしたにも拘らず、そんなことは二の次にしてる

何モンなんだよ、あの女…

こんなヤロウとは初めて出会ったよ

カルチャーショックだった