その11
麻衣



あー、いい湯だったわ

私がリビングに戻ると、はは、やっぱりな…

「麻衣、大変だよ!残ったの、これだけになっちゃったよ!」

案の定、離脱者はあの後も増えて、合計8人に上ったようだ

その離脱組が二階から降りてきた


...



「じゃあ、麻衣、私たち行くから…」

先頭のサチコが、早足で私たちの前を通り過ぎて行った

「能勢さん、長距離でご苦労様ですが、よろしくお願いします」

私は、トイレから出てきた能勢さんにあいさつした

「はい、全員下ろしたら電話しましょう。まあ、夜中になるでしょうけど…」

能勢さんはハンカチで手をふきながら、私に言葉を返してくれた


...



離脱組の最後尾は馬美だった

玄関を出る前、彼女は室内を振り返り、久美を睨みつけている

考えてみれば、馬美は久美が私に引き合わせたんだっけ

入学当時は仲がよかったんだけどな…

久美の密告は、私が導いたようなもんだ

さすがににこんな光景を目の当たりにすると、私の心は複雑だった

少し小降りになった雨の中、8人を乗せた2台の車が別荘を後にした


...



「麻衣、あいつら、このまま放っといたら、べらべらしゃべるよ。報復しないって、あれ、あいつらを油断させる為だろう?裏切者は、しっかりとシメてやろうぜ」

「さっきのは約束だ。久美、勝手なことは許さないからな。いいね」

「…わかった」

久美は歯ぎしりをして、ホントに悔しそうだった

こいつの気持ちは汲むべきところがある

しかし、私はビシッと言ったよ


...


それにしても…

18人分の料理はほとんど手をつけられず、そのままだ

ご馳走の並んだにぎやかなテーブルの上も、こうなっては虚しい限りだよ

「遅くなっちゃったけど、さあ、みんな座れよ。これからが本当の会合だしな」

「うん。じゃあ、みんな、席につこう。ああ、あんたもさ…」

久美は、リビングの端で腕組みしていた祥子に声をかけてる

「どうやら、やっと腹ごしらえできるな、はは…」

祥子もさぞ、腹が鳴っていたことだろう(笑)


...



「改めて紹介するよ。双葉女子高の津波祥子だ。ウチらと同じ高1だけど、ダブリだから年はいっこ上だ」

祥子は照れ笑いしてるよ

「じゃあ、先輩ですね、祥子さん。よろしくですよ。私は北田久美です…。さあ、みんなも”先輩”に挨拶しようよ…」

久美はすかさず”潤滑油”を流し込み、この場を和ませた

どうやら、今後は久美の存在が一際、目立ってくるな…

そのあと、他の残留メンバーも改めて、皆自己紹介をした

ここには私と祥子を含め、11人が残った

概ね、こんなもんだろう


...



自己紹介を終え、私らは18人分の冷めた料理を、朝までかかって全部、食ってやろうということにした

そして、外の雨はすでに上がっていた