その10
麻衣



しばらくすると、涙を手で拭いながら、サチコがリビングへ戻ってきた

「みんな、見たとおりだ。馬美に勝ったさっきの女が今日からドッグスに入り、私の副官に着く。ここまでで私のやり方について行けない奴は、さっさと埼玉へ帰ってもらう」

いやあ、みんなの顔が面白い

真剣そのものだし…


...



「…今、能勢さんがもう一台、運転手付きで車持ってきてくれたから、ええと、12人は乗れる。バイクはこっちで運ぶから安心していいよ。さあ、先着12名様だ。この場で名乗り出ないと、後で後悔するぞ」

ハハハ…、定員まで告げたら、瞳孔開いてる奴がいるよ(爆笑)

「私は抜けるわ。馬美を連れて…」

サチコは躊躇しなかった

「だけど、約束して。出て行ったあと、いやがれせや報復は絶対しなしと。麻衣だけじゃなく、みんなに誓わせて、この場で」

サチコはしっかり者だわ

「ああ、誓うよ。残ったメンバーにも勝手な真似はさせない。これでいいな?」

「うん。じゃあ、とりあえず二人ね」

サチコがこう断言すると、せきを切ったように脱退希望者が相次いだ


...



「私も抜けるわ」

「私も…」

えーと、1、2、3…

サチコと馬美を加えて6人か…

うーん、まだ出るはずだけど…

「よし、脱退組は帰りの支度にかかってくれ。8時半には出発になるから。それと、私はシャワー浴びてくるわ。風邪ひいちゃう前にな。ああ、私が風呂入ってる間に”抜け”に入ってもいいから、じっくり考えて決断しなよ。じゃあな…」

私は浴室に向かった

ひとっ風呂浴びて帰ってくるまでに、さあ、何人残ってるかな…


...


”ジャボーン!”

私は浴槽に飛びこんだ

「おー、風邪引いちゃうよ、全く…」

「ハハハ…、お前さー、タオルで前くらい隠せよ」

祥子め、突っ込み入れてきたわ

「んなもん…!そんな余裕ねーって。ふー、いい湯加減だわ」

「まあ、ゆっくりつかってろ。じゃあ、私は先に出るぞ」

祥子はそう言って、脱衣所へと消えて行った

タオルで前をしっかりと隠して


...



海の見えるこの浴室には、馬美と私の二人きりになった

「よし!馬美、背中流すよ」

私は浴槽から出て、馬美の後ろに座った

「いいよ。もう洗ったし」

「いいから、いいから。二度洗いもってのも、いいもんだぞ…」

私はためらう馬美を押しきり、目の前の背中を泡だらけにした


...



「なあ、馬美…。私ら四人がさ、相和会に拉致られた時のこと話していいか」

「ああ…」

「あの時、四人は裸にされて、暴行を受けた。久美とサチコは泣き叫んで半狂乱だったな。でも、私は最後まで抵抗した。お前もあの二人に比べて、しっかりしてたのを覚えてる。だけど、暗くてわからなかったんだ。あのさ…、お前、結局強姦されたのか?」

「ううん…、私も必死で抵抗してたから…。麻衣みたいに冷静ではなかったけど」

「そうか…、よかった。ならさ、付き合ってた彼には最後まで許さなかったこと、言わずにいられないよな。で、わかってくれたのか、彼は?」

「いや、もう別れたよ。あっちは複数の女と付き合っていたし、今回の件でなんかさ、急に冷めちゃって…」

「馬美って不器用な奴なんだな…。彼と別れるようなら、最初から言わなきゃ、まあ、こんなことにはな…」

「そうだよな。損得を計算できない人間は今の時代、生きて行けないよね。これからは、目先の損得もよく考えないと…」


...



「なあ…、今日の件は、私なりに迷った末の決断だったんだ。それこそ損得となれば、馬美は失いたくない人間だったし…。でもさ…」

「わかってる、麻衣。あんたのやりたいことは承知してるから。それに立場もあるし…」

「なら、勝手かもしれないが、いずれかは戻ってくることも考えといてくれないか…」

「麻衣、はっきり言うわよ。久美がいる限り、もう戻る気はないよ。言いたいことはわかってると思う」

「うん。…でもさ、久美みたいなヤツも必要なんだよ、今は」

「とにかく…、久美なんかがいたら、無理だよ、私は」

「そうか…。馬美の今日の言葉、よく頭に入れとくわ」

私と馬美は、相和会に監禁された時とおんなじ、素っ裸で本音をぶつけ合った