その9
麻衣



このタイマンは、馬美、祥子ともに不本意なものだったろう

何の因縁もなく、初対面で潰し合いに近い決闘だ

勝った祥子にしても、後味は悪く、釈然とはしないはずだ

「祥子、中へ入って先にシャワー浴びててくれ」

「うん、じゃあ…」

祥子は小さい荷物を片手に、別荘へ入っていった

この間、掃き出しの窓からは、メンバーの視線が熱く注がれていた

あいつらの目には、二人の戦いがどう映ったことだろう

祥子が玄関を開けると、皆一斉に注目してるわ

そうだよ、今日からこの大女がお前らの直接の上司だ

とくと拝んどけ!


...



「馬美、お前の根性はしっかり見届けた。さあ、中へ入ろう」

私は馬美の体を抱き起こした

そして肩を貸す体制に入った私に、馬美は毅然と言った

「一人で歩けるさ、麻衣」

「そうか…」

ブブブーン…

その時、黒いワゴン車が2台、勢いよく別荘の駐車場に入ってきた

時間ぴったりだわ、能勢さん…


...



私と馬美が別荘のリビングに戻ると、真っ先にサチコが走ってきた

サチコはすでに大粒の涙を流していた

「馬美、大丈夫?しっかり!麻衣、こんなことして何になるのよ!ひどすぎるわ…、うっ、うっ…」

リビングのテーブルに手をついて、足元がおぼつかない疲労困憊の馬美の肩を抱き寄せ、サチコは泣きながら私に噛みついた

「私はこんな野蛮なチーム抜けるわ!馬美、一緒に帰ろう、ね…」

「…」

馬美は黙っていた


...



ここで、久美が二人に向かって大声をあげた

「あんたら、抜けんのは勝手だけどさ、麻衣の気持ちも少しは考えなよ!麻衣はさ…」

「久美、よせ。サチコ…、馬美を浴室へ連れて行ってやってくれ」

私は久美を制止し、サチコには馬美の介添えを頼んだ

馬美は泣き止まないサチコに抱きかかえられて、浴室に向かった

「麻衣、いいのかよ?サチコにあそこまで勝手なこと言わせといて!」

「私もそう思いますよ。久美さんの言うとおり、好き勝手なことやらせてたら、組織はまとまりませんよ」

この女、確か…

久美に金魚のフンみたいに媚びてる腰ぎんちゃくだったな

「とにかくみんな、席につけ」

私の一言で、残った全員がそれぞれの席に戻った

「ああ、能勢さん、予定通りになりそうなんで、お願いします」

玄関で煙草を吹かしていた能勢さんに、私がそう声をかけると、能勢さんは無言でうなずいて、靴を脱いだ

そして、準備のため2階へ上がっていった

さて、再度の踏み絵と行くか…