その3
麻衣


「ああ、三田村さん、今ホテルからよ。あのね、私と倉橋さんの広島訪問、”表出し”OKとれたから。ええと、五島の親分からは、天狗の宮島張子を婚約祝いでいただいたって…。キャッチはそれでお願い」

「ならさ、広島の夜は彼にその天狗かぶらせて、ベッドに入ったって流すか(爆笑)」

「やだ、恥ずかしい。そこまでは勘弁してくださいよ」

「なに照れてんのよ。ガラでもなしに。まあ、うまく脚色するから安心しな」

「お願いしますね。なにしろ、思いのほか歓迎されたわ。相和会と西の付き合いは、今の私たちにちょっかい出してる輩どもには決定的なプレッシャーになるわね。ああ、お土産、ちゃんと買ってありますんで。お楽しみに…。又連絡しますよ」

ホテルの部屋からの外線は数分で切り上げて、私はベッドに仰向けになった

なんか、私、どこまで行っちゃうんだろうか…

ありきたりの言い回しだけど、不安と期待…

まさにそんなところだよ


...



翌日は、剣崎さんの車で大阪に向かった

料亭の一室で、昼の会食ってことらしい

”西の御大”は文字通り、関西および西日本のこの世界では、長年影響力を保ってきた、いわゆる業界の長老だ

静岡の叔父さんとは、終戦間際からの付き合いで、今回の西へ舵を切る際は、水面下の調整で精力的に動いてくれたそうだ

死んだ相馬さんが関西と揉め事を起こした時には、いつも仲裁の労を取ってもらったということだよ

だから、あのイカレ具合は十分知り得てるようで、今日会うことになってる私には興味深々みたい

連日、大物との対面で、倉橋さんはちょっとしんどそうだが、私は例によって心を弾ませている

こんな境遇、想像だにしていなかったもん

もう、ここんとこ夢心地だよ