その2
剣崎



倉橋のヤツ、五島さんとの面会が終わって、ホッと胸を撫でおろしてるわ

明日の”御大”が終わったら、体重減らしてるんじゃねえのか、コイツ(苦笑)

それにしても…

麻衣のこの手の社交術には、もう感嘆するほかない


...



「ハハハ…、麻衣ちゃん、よう似合いよる。”それ”、かぶって学校行ったらどうな?そりゃあ、ほんに、伝統もんじゃけんのう…」

「あら、親分、それは無理ですよ。私、高校クビになったんですもの。それじゃあ、倉橋さんの店でかぶりますよ。ねえ、きっと売上げ倍増よ、”これ”かぶってお酒出せばさ…。カラオケも盛り上がるわ、ねっ…」

麻衣め、目の前の”天狗”をかぶって、隣に座っている倉橋の腕あたりを突いてるわ(笑)

「そうじゃ、そうじゃ…。倉橋君よう、店の方は麻衣ちゃんに任せておきゃあ、ええ。この奥さんなら、銭が天から降ってきよるぞ。あんたはよう、ますます撲殺もんの看板を磨けるっちゅうもんよ。のう?ハハハ…」


...



「…剣崎君よ、何じゃね、あん子は。ほんに、相馬さんとは血、繋がっておらんのか?いやぁ…、あの目えは、相馬豹一にそっくりじゃったがのう…」

五島さんは目をまん丸にして、首をさかんに傾けていたよ(苦笑)


...



「アニキ、麻衣は今日、”アレ”の日で体調がすぐれなかったんですよ…」

手にした水割りのグラスをじーっと見つめながら、倉橋はぽつりと小声で言った

「そうか…。じゃあ、今日はそのまま寝かしてやるのか?」

「はあ…。まあ、そうっすね…」

「だがよう、部屋に帰ったら麻衣のヤツ、服脱いで待ってるんじゃねえのか?頭にあの赤い天狗、乗っけてよう、ハハハ…」

「勘弁ですよ、アニキ…」

この時の倉橋の照れようは見ものだったわ(笑)


...



「なあ…、せっかくだ。明日、大阪の用が済んだら、”あそこ”に麻衣と連れ立ったらどうだ?」

「ええ、麻衣にもせがまれているんですが…。しかし、今さら”あの場所”に行ってみたところで…。それより、他の観光地の方がいいだろうって言ってるんですがね」

「倉橋…、麻衣にとっちゃ、大阪城や食いだおれコースより、お前の”原点”をその目で確かめたいってとこじゃねえのか?」

「…」

「はは、お前の首の火傷痕な…、そのいきさつを話した時の麻衣、どこか遠い目をしていたよ。ひょっとしたら、麻衣は倉橋自身より先に、その首に惚れたんじゃねえのか」

倉橋は苦笑いして、グラスを一気に飲み干した