その1
麻衣



列車は時間通りに新広島へ到着した

「荷物、麻衣の方が重そうだな。そっちを持とう」

「ありがとう…」

ホームから降りたところで、彼が気を利かせてくれた

「迎えの車が来るまで少し時間があるから、コーヒーでも飲もうや」

「うん」


...



「なんか、新婚旅行みたいね」

「それを言うなら、婚前旅行じゃないか、はは…」

駅前の喫茶店では、やはりご当地の”言葉”が耳に入ってきてね

なんかいいわ、こういう違和感も

新鮮な刺激の中にも癒される感じがあってね


...



「一応、直近の状況を言っとくよ。まあ、概ねは承知してるとは思うが」

彼のサングラスの奥にある目は、”仕事中”に切り替わったようだわ

「五島さんは、うちが西にシフトしたことを、受け入れてくれてる。剣崎さんは、ガキの関与を打ち出してきてる関東の一部とは向き合う姿勢を話したはずだ」

おそらく彼の話を聞いてる私の目、鋭く光ってたと思う

「…今日、具体的に先方からは、星流会の”世間話”が出るだろう。麻衣が諸星と会ったことも伝わってる。相和会としては、ヤツらのガキの肩入れがここまで来た限りはそのまま見過ごさない方針ということで、理解を得ているんだ。麻衣がそこに絡んでるのも興味を持ってもらってるしな。だから、”世間話”は弾ませてくれ」

いやあ、ある程度は聞いていたけど、剣崎さん、そこまで地ならしをしてくれてるんだ

そうとなれば、私が思い描いてる動きは、大きな力からの黙認を得たことになるか…

それを”奴ら”が知れば、”顔デカ”んとこを孤立させられるかもね

よし、都県境に戻るまでの間にだって、火は放ってやるわ!

遠隔操作だってできちゃうんだから(笑)…