その4
麻衣


「おう、剣崎!テメエ…、どんなスジでこのイカレ野郎連れてんだ!そいつは、こっちに迷惑かけたカタギにそそのかされて、ウチのモン、ボコボコにしやがったんだ。業界の印も持ってねえハンパもんに3人だ。この落とし前はキッチリ、そいつにつける。そっちはもう引いてな」

「いや、引けないんですよ。この男はもう相和会のモンです。ここで手え出されれば、相馬豹一に挑んだってことになります。そこんとこ、よく考えてもらいましょう」

「はあ?剣崎!なんなら、お前もろともここでバラしてやってもいいんだぞ!ヌケヌケと屋敷に押しかけやがって。おう!」

「かかってくんなら、さっさとどうぞですよ。どうなんすか?」

「うう…」


...



「いいですか、この倉橋に今後指一本でも手出ししたら、相和会が総力をもって田代組を潰す。これはウチの会長の伝言です。文句ねえですね?」

「お前ら、関東直系にケンカ売ろうってのか!」

「相和会は相手が西でも東でもカンケーねえんですよ」


...



まあ、こんな無茶なことばっかやってたらしいからね、相和会は…

「…剣崎さん、あの場で奴らが大勢で刃物とか持ってかかって来たら、どうしたんですか?」

「ああ、そしたらこの両のこぶしで相手をぶっ殺してやるつもりだったさ。たとえ刀でぶった切られようがな」

この時、剣崎さんは相馬会長から、万一に備えて刃物を持って行けって言われたらしいんだけど、剣崎さんは拒否したそうだ

で…、敵陣には丸腰で乗り込んだ…

何故か?

倉橋優輔は組織のバックもない一介のチンピラなのに、関東広域の直系組織の組員に素手だけで挑んだからだった

優輔はこの言葉を剣崎さんから聞いて、全身が震えるほど感激したという


...


「…剣崎さん、そしたら、場合によっては俺と一緒に死んじまう覚悟で田代組に乗り込んでくれたんですか?」

「そうさ。俺達は決して、東西どちらの軍門にも下らない…。その意気でこの業界を生きてる。大手連中にはよう、常に体ごとぶつかる性根を持ってねえと太刀打ちできん。…倉橋、お前は組織に入っていない立場で、その業界大手の”社員”を素手のみで半殺しの目に遭わせた。しかも複数を相手にして…。その場にいた人間は、警察が止めに入らなかったら殺すまで殴り続けていたんじゃねえかって言ってたそうだ。どうなんだ、正直なところ…」

「…殺してましたわ、3人とも…」

「ふう…、撲殺男だな、お前は…」

この後、倉橋優輔は検崎さんと杯を交わし、相和会の正式組員となったそうだよ


...


「やっぱり、撲殺のほうが上ね、秒殺のオオカミよりさ」

私はそう言った後、カウンター正面のダーリンのほっぺにチューをしてた

大阪万博抗争での焼きゴテも心を打たれたけど、この撲殺男バースデー・エピソードも胸が高鳴ったわよ

優輔…、あなたはどこまでもステキだって!

私は秒殺とかNGなし云々のクソごときに、たやすく殺されないわ!


ー本話完ー



注釈:本作の登場人物及び挿入エピソードに関連する物語は、『ヒートフルーツ』関連各作、『NGなきワル』「セメントの海を渡る女』を参照下さい♪