その1
麻衣


倉橋さんか…

ごっつい体と強面のお顔に似合わず、下の名前は優輔ってね…

何というアンバランスさなんだ

思わず吹き出しそうだったわ、私…

初対面はそう感じた

当然…

でも、次第にこの名前が彼にふさわしいと思うようになる…

いや、すぐに…


...


「…お嬢さん、あらかじめ言っておきますが、俺は極めて武骨な男なんで、何かと行き届かないところがあると思います。あらかじめ承知してくださいよ。その辺は」

「はい、よろしくお願いしますね、倉橋さん」

これが”彼”と言葉を交わした初めてだった


...


「…剣崎さん、倉橋さんは私の”監視”も兼ねてるんですよね?」

「ああ、その通りだ」

「じゃあ、私が本当は相馬会長と血が繋がっていないことも承知してるんですね?」

「そうだ」

「でも、剣崎さんと違って、周りに人がいないところでもおんなじですよ、あの人。お嬢さんって…。なんでなんですかね?」

「倉橋は周りに人がいようがいまいが、お前をお嬢さんとして接してる。その際、血のつながりは関係ないんだ」

「…」

「はは…、ヤツにとっては仕事なんだ、麻衣の”お付き”はな。だけどな、その時その時で、いちいち区別して態度を変えるなんて器用さは持ち合わせていない。だから、相馬会長のお嬢さんとして徹してるんだろう。そういう男さ、倉橋は。まあ、ヤツも最初だからってことはある。そのうち気さくに接するようにはなるさ」

私は彼のこの不器用さが次第に愛しくなっていく…

...


「クスリの分量は気を付けてるか、麻衣ちゃん…」

「自分ではそのつもりなんですけど…。どうですか、倉橋さんから見て…」

「ふう…、どう言っていいやら…。女子高校生がクスリってことだけで信じられないしね。でも、君は会長と”そう言うこと”で合意した訳だし…。ちょっとな…」

倉橋さんって、私にはいつも誠実に答えてくれる

まあ、口べたな人だから、言ってる意味が分かんない時も多いけど…(苦笑)


...


「へへ…、聞いちゃいましたよ。倉橋さんの首の火傷痕のこと…」

「剣崎さんにか?」

「はい。くわしく教えてくれました」

「そうか…(苦笑)」

「そこ…、”勲章”だって言ってました、剣崎さんは」

「…俺はそう思ってないよ」

「なぜですか?」

「俺にとってはさ、単純に”仕事中”のアクシデントで負ったヤケドに過ぎないからさ。工員でいえば、機械の操縦で誤って指切断とかな…」

撲殺男はこういう時、とつとつとした口調で話してた

ション便娘が言うのも生意気だが、どこかいじらしい感じがしてたよ、いつも…

それは、私の感覚では、律義・誠実…

まあ、この人、モノホンのやくざだけど…