お父さんが亡くなってすぐにこの町に引っ越してきた時、私は悲しい思いから逃げるためにここへ来たのだと思っていた。
お父さんは有名なバスケの選手だったから、それまで相応に大都会の一等地に建っている大きなマンションに住んでいて、幼稚園も大学まで付属している有名なところに通っていた。
突然生活水準をガラリと変えることは安易なことではないはずなのに、それでもお母さんは変わらず、今と同じような笑顔を絶やさなかった。
当時は子供ながらに、私を悲しませないように無理しているんだと逆にツラかった時期もあったけれど、今はもうそうは思わない。
あの姿が本当のお母さんで、私のお母さんだから頑張っていて、お父さんのお嫁さんだから約束を叶える為にここに来たんだってことを、あの笑顔から教わった。
「伊都、携帯鳴ってる」
「え!?あれ、私どこ置いたかな」
「奥の和室から聞こえる。ほら」
「ほんとだ!ありがとう悠太くん」
「あ、伊都ー!悠太来てくれたし、伊都はそのままもう上がっていいからね!」
「分かった、じゃあ悠太くん。あとよろしくお願いします」
「おう、じゃあまた」



