そう言った律くんはゆっくりとこちらに戻って、そしてあろうことかそのまま動けない私をヒョイッと抱きかかえて持ち上げた。
ギョッと驚く私と、「どこか休めるところに行こう」と言ってにこやかに笑った律くん。
いきなりのことで加奈子ちゃんたちに挨拶もできないまま、この裏路地を出て行こうとする彼を必死で止めにかかる。
「お、下ろしてください律くん!」
「でも伊都ちゃんまだ歩けないでしょ?ずっと地べたに座らせるわけにもいかないし」
「だ、だけど!」
「なら、ジッとしてなきゃね。……って、前にもこんなやりとりをした覚えがある。もう懐かしいね」
あぁ、私も覚えている。
確か、タケちゃんの私を呼ぶ声に驚いて転んでしまった時のことだ。盛大に鼻を打ち付けて大量の鼻血が出ていたところへ、律くんが助けに入ってくれた……あれはまだ夏のころのこと。
「……」
どうして律くんが、まだまだ幼かったころの、たった1年程度の関係しか持てなかった私のことを今でもこうして想ってくれているのか。
そんなことを時々考えてしまう。
どうして何度も何度も助けてくれるんだろうって、どうして私なんだろうって、律くんの腕の中で揺られながらそんなことを考えていた。
家に着いた今も、律くんに触れたところだけがずっと……熱を持つ。
律くんのことが好きだと感じるたびに、今度は失ってしまうことを恐れる。
海外遠征だなんて、本当は―――……。



