「伊都ちゃん泣いてる?」
「泣いて、いません」
「そっか。じゃあ、伊都ちゃんの話……俺に聞かせて?」
「……っ」
「もっと、伊都ちゃんのことを俺に教えてほしい」
律くんの優しさが、今はとても痛い。
彼の姿を目にすると、どうしても夕夏さんがチラついて見えてしまう自分にもほとほと嫌気がさす。
早く慣れよう、早く忘れてしまおうとしても、心のどこかでまだ律くんに対するこの想いを忘れたくないと抗う私がいる。
芽生えたばかりのこの気持ちを摘み取ろうとするたびに、失敗して、苦しくなる。
どうにかしてほしいとは思わない。
律くんと夕夏さんの仲が悪くなればいいだなんて、みんなが不幸になるようなことも願わない。
ただ私の中で、きちんと納得できるように消化したい。
だから、今は――。
「1人にっ、してください」
「伊都ちゃん、」
「ごめんなさい……っ、律くん」
スッと横からスリ抜けるように、律くんから離れた。
誰かを好きになるということも、こんなにも何かを諦めなくちゃと強がることも、そして諦めたくないと我が儘になったことも、全てが初めて経験する感情だった。



