体育館を出てすぐとなりに設置されている古びたベンチに座っていた私に、そう声をかけたのは他でもない律くんだったから、顏を伏せたままそれ以上何も話せなくなる。
今、必死で私の中から律くんを追い出そうとしているんです。
もっと適度な距離感に戻さなきゃ、以前のように振る舞っていかなくちゃって、必死になっているんです。
だからこれ以上、律くんも私に関わらないでください。
幼いころの覚束ない記憶を手繰り寄せることも大変だけれど、せっかく戻ってきたそれをなかったことにすることはもっと大変なことなんです。
律くんのことを好きになる前の、意識する前の、あのころに――。
「律くんの……っ、せいです」
「え?」
「律くんのせいだ……っ」
「伊都ちゃん?」
こんなの、ただの八つ当たりだ。
律くんの優しさに、律くんの恰好良さに、律くんのバスケをする姿に魅せられたのは――……私。
けれど塞き止めていた言葉を1つこぼしてしまうと、今度はどんどん溢れ出てきて止まらなくなる。
律くんの思わせぶりな態度がいけないんですって。
そっとしておいてくれたらよかったんですって。
全部、律くんのせいにしてしまいたくなる。



