「殿下、先程の件ですが、」


 側近の一人が声をかける


「あぁ、セリーナは悪くないんだろう」

 さも当然! と言った返答だった。

「それはもちろんですが、なぜ未だジュリアナさんは殿下を名前でお呼びしているのでしょうか? まさかお許しを?」


「許すわけないだろう! 私を名前で呼んでいいのはセリーナだけだよ!」


「そうでしょうね。そこも正さなくてはなりませんね」

 ハッとするジェフェリー。

「そうだった! 何か分かったことがあるのか?」


「殿下が、平民の娘を婚約者のセリーナ嬢より大事になさっているそうだと」


「そんなわけあるか!」

 イラつくように返事をするジェフェリー。

「殿下の名前を呼んでいるのは、特別だからだと言う話ですね」


「許可をしていない!」


「殿下は近々セリーナ嬢と婚約を解消して愛する人と一緒になるのだと」


「セリーナだけを愛している!」

 そんなこといちいち言わなくてもわかるだろうが! 子供の頃からセリーナ一筋だ!

「十年拗らせてこんな事になろうとは……」


「噂を流しているのは誰だ!」

 冷静になるためにこめかみをぐりぐりとおしやる。


「フロス商会です」


「王都にあるあの商会か? 手広く商売をしているよな」


「えぇ。最近はイミテーションの宝石も販売しています。悪いとは言いませんよ? イミテーションと言って販売していますからね」


「それが?」


「先程の件ですよ。セリーナ嬢はジュリアナさんが付けていたエメラルドの髪飾りをイミテーションだと思い、素敵だから普段使いには良いと仰ったそうです」


「さすがセリーナ! 一目で分かったのだな」


「えぇ。流石セリーナ嬢です。でもジュリアナさんは本物だと思い込んでいますから、腹を立てたのだそうです」


「実物を見ていないからなんとも言えないが、セリーナが言うのなら正しいのだろう。これも私情か?」


「いえ。状況を聞く限りセリーナ嬢の行動に間違いはないかと。セリーナ嬢がジュリアナさんを貶める理由がありませんから」


「そうだよな。ジュリアナとかいう娘は何を考えているんだ?」


「……あなたの妃の座を狙っているのでは?」


「なぜ私があの娘と?」


「存じ上げません」



 側近の一人はあっという間に噂を流している人物にたどり着いた。フロス商会、ジュリアナの実家だった。