「なんでそんな……」


 立ち上がったと思ったら膝から崩れ落ちる様に床に座り込みましたわ。

 側近の方達がそぉーっと退室なさいました。執務室は私と殿下の二人になりました。



「あの、殿下、なにか」

「殿下と呼ばれるのも嫌だ……」

「どうなされましたの?」


 まさか泣いてらっしゃるのでは?!


「誤解を招いたなら謝る。今まで悪かった、婚約を解消なんて、言わないでくれ」


「私たちは政略結婚で、殿下には思い人がいるのではないのですか?」


「……私は政略結婚だなんて思っていない」


「でも、ジュリアナ様は」


「だれだよ、それ? セリーナの口からそんな名前なんて聞きたくない」


「殿下がお世話をされていますでしょう? お茶に二度お誘いして、相思相愛なのだと皆さんが噂をされていますし、」


「誘おうと思っていたのはセリーナだよ。ずっとずっと言いたかった! 私はセリーナのことが好きなんだ」


 堰を切ったように話し始めました


「殿下?」


「婚約を解消なんて、冗談でも言わないでくれ……その話を母上から聞いた時にどれだけ辛かったか……」


「殿下、どうされましたの? まさか泣いて、」

 泣いているのか分かりませんが、涙声のように聞こえます。声が出て小さくなって……