「これはまずい……!!」


 フロス商会の一角で頭を悩ますジュリアナの父。


「どういう事だ!」


 ばんっ! と机を叩き部下に怒鳴りつける。


「はぁ、それがですね。何軒かの貴族宅がうちとの取引をやめて他と取引を始めました。きっかけはランディ侯爵家でした……」


「その取引先はどこだ! 圧力をかけてやろうか!」


「それが、元貴族の方がやっている商会でして着実に客を得ていますし、バックが大きいのでそれはきびし、いや! 出来かねます」


「貴様! 逆らう気か!? クビにするぞ!」

 次は机を蹴るジュリアナの父。


「……そうですか。それではお世話になりました。こんなやり方をしても誰も得をしません。娘さんが大事なのはわかりますが、私にも家族がいます。沈みかけの船ならば降りなければなりません」


「覚えておくがいい。この件が片付いたらお前の一家は路頭に迷うだろう」


「それは脅しと捉えてもよろしいですか?」


「生意気な口を利くな! ジュリアナの勘違いのせいでゴシップ誌の編集長はうちを恨んでいるし、高位貴族の邸宅への出入りも出来なくなった! 全てはランディ侯爵家のせいだ!! あの令嬢を王妃にしてたまるか!」


 自分の娘が勘違いして騒いだのに、何故か矛先がランディ侯爵令嬢に変わった……。

 この先この商会に未来はないと悟った。クビになったのは良い機会だったのかもしれない。


 頭を下げ、退職願を出しこの場を去った。