そんなある日。家の外で物音がしました。

 昼寝の真っ最中だったケン太とチュン太は、その音にビクッとしました。

「……だれか来た」

 ケン太がささやきました。

「……人間だ」

 チュン太もささやきました。

「……どうする? 窓には鍵がかかってるから、他に出口はないぜ」

 ケン太が不安げに言いました。

「ちょっと待って。……何か方法はないかな」

 チュン太はそう呟きながら、わらぶきの屋根を突き破っている一本の竹を見上げました。



 保健所の職員が中に入ると、ケン太とチュン太の姿はなく、竹が突き破った天井からは空が覗いて、その下には、たくさんのわらくずが落ちていました。



 ケン太とチュン太はどうやって脱出したのでしょうか?

 まず、竹が開けた屋根のわらを、チュン太がくちばしでつついて穴を広げ、次にケン太を乗せると、その穴から飛んで逃げたのでした。



 その後、ケン太とチュン太はどうなったのでしょうか……。




 チュン太が飛び降りたのは、ケン太が飼われていた農家の庭でした。

 犬小屋はそのままありました。そして、犬小屋の中には、リードも首輪もきれいに洗ったピカピカの食器も置いてありました。

「チュン太、夢を叶えてくれてありがとな。チュン太と一緒にずっと旅をしたかったけど、……やっぱ、飼い主さんには恩があるからな。悲しませるわけにはいかない」

 ケン太はそう言いながら、うつむきました。

「ケン太さんの夢を叶えられてよかったです」

「……ありがとう」

「……それじゃ」

「それじゃって、どこに行くんだよ」

「また、ひとりで生きていきます」

「ここで一緒に暮らそうよ」

「エッ!」

 チュン太が目を丸くしました。

「飼い主の奥さんは優しい人だから、歓迎してくれるさ」

「……でも」

「寝床も食事もついてるんだ、チュン太にも天国さ。また、一緒に寝て、一緒にご飯食べようぜ」

「……いいの?」

「当たり前じゃないか。おれたち友だちだろ?」

「……ケン太さん」

「その前に、合図を決めとこう。おれがワンて一声鳴いたら、おれの背中に乗って、チュンて一声鳴くんだ。わかった?」

「うん、わかった」

 そのときです。

「ケン太ーーーっ!」

 ケン太の名前を呼ぶ、奥さんの声がしました。

 ケン太はオスワリをしてシッポを振りました。

「ケン太、心配してたんだよ。よかった、帰ってきてくれて……ケン太」

 奥さんはそう言って、ケン太を抱きしめながら泣いていました。

「……クンクン」

 ケン太は、奥さんの頬の涙をなめてあげました。そして、

「ワン」

 ケン太が一声鳴くと、犬小屋に隠れていたチュン太がケン太の背中に飛び乗りました。

「チュン」

 チュン太は一声鳴いて、奥さんにアピールしました。

「あら、かわいい雀。……友だちかい?」

 奥さんがケン太に訊きました。

「ワン」

 すると、ケン太が即答しました。

「そうかいそうかい。友だちができてよかったね。ふたり共お腹空いてるでしょう? 今、食べるもの持ってきてあげるからね。雀ちゃんの分も皿に入れてくるね」

 奥さんはそう言って、優しく微笑むと、ケン太の食器を手にして行きました。

「やったー! どうだ、歓迎してくれただろ?」

「うん。ケン太さんのお陰です。ありがとう」





「助かったぜ。大食漢(たいしょくかん)のチュン太と皿が別で」



  おわり