その5


「和田先生からも聞かれてるかもしれませんが、東京都下の中学・高校で頻発している生徒たちの連鎖自殺は、いつこの学校には普及するかわかりません。手嶋先生の前任校での不幸な事件は、先生が生徒から信頼故、昨日の三浦さんみたいに助けの声に耳を傾けられた…」

「…」

「…幸い、先生の迅速かつ誠実な対応で、彼女からのSOSは、和田先生を通じて然るべき専門機関で対処いただけることになりました。であれば、ここはそれと並行して、我が校でも今から生徒たちに異変が生じれば、即我々学校側に相談できるようなホットラインを築く必要があると思うんです」

「先生…」

手嶋は目が点になっていた。
奈緒子の言わんとすること、目的、狙いは大まかに理解できているのだが、その先…、具体的となると、正直、頭がついて行かなかったのである…。


***


そんな後輩教師、手嶋の顔をなんとも暖かい目で見つめ、奈緒子は続けた。

「和田先生は御自分の学校で、”その行動”に出ています。自ら先頭にたって、自殺を考える、そこに追いやられて悩む生徒たちに直接アプローチできる環境作りを、学校側に真正面から提案しているそうです。自殺の連鎖が起こる前の防止策として…」


「ええ、僕も大体は聞きました。でも、それと同じことを、僕ら二人が学校側に上申しても、なかなか難しいんじゃないですかね?」

「おっしゃる通りです。ですから私、考えたんです。我々現場の正規科目教師と生徒との間にワンクッション…、養護の先生を置いて、言わば生徒の駆け込み寺、お悩み相談室みたいな機能を設置したらと…」

「…」

もう、手嶋は口をポカンと開け、呆然としていた…。