その4


”あの後も…、和田さんとは濃密な話が続いたわ…。それで、最後はまさかってことまで起こって…”

その夜…、夫と長女が寝静まった後、シャワーを浴びながら奈緒子は和田との”そのあと”が脳裏を巡っていた。


***


「そうですか…、要は私の学校周辺も含めた東京都下でこんなに…」

和田から受け取ったその”地図”に目線を落としていた奈緒子の口調は重々しかった。

”この地図上の赤い点は、和田さんが都の教育委員会に照会して確認した、この1年間で自殺した中高生ってことなの…。いくら何でも多すぎでしょ!”

「ふう…、断定はできないにしても、鬼島のヤロウに”殺された”可能性のある人間がすでに都下の中高生だ毛で30人を軽く超えてる…。自殺防止キャンペーンのあのタレントもその輪の中って見れば、もう実質パンデミック状態ではある。…で、オレたちのやるべきこと、やれることだよな。…奈緒子さん、丸島がこの世を去って以来、オレはそこんとこをずっとだった」

「和田さん…」

「鬼島が残した負の遺産は、アライブの鷹山さんも重く捉えてくれてて、その間、霊能力者の国上さんとその探求に全力を注いでくれてた。…ようやくここまできたってとこなんですよ。なので、今日あなたに…」

「ええ。和田さんの好意には、何とお礼を言っていいのか…。私は、父と同じ高校教師として、父が彼にとった問題のある対応と、鬼島則人の”行い”を引っ剥がす決意に至っています。私達のできるマックスでやります。その覚悟ですから…」

奈緒子は顔を紅潮させ、そう和田に訴えた。
その素直な心に従って…。


***


「それで…、手嶋の前任校の女子生徒二人もおそらくでしょう。ヤツにはそれとなく”全容”を匂わせてあります。焼け石に水かもしれんが、とりあえず、目の前の”事件”で突破口を考えましょう。手嶋の教え子たちからの拡散を防ぐ…。まずは…」

「手嶋先生もまきこんでしまったんですね…。あんな純粋な若い先生も…」

「奈緒子さん、いや、野坂先生…、コトはもう日本全国でインフルエンザ並みの流行を起こしかねない状況なんです。その最前線が、おそらく我々が勤務してる東京都下の中高校生だ。であれば、一教師としての責務からも、目の前で起こった然るべき事態にソッポは許されない…」

「…」

この時の定年間近の和田が見せた何ともやるせない表情に、奈緒子は瞳を潤わせていた…。