その後…



「そうですか!父の高校時代の同級生だった水野さん、お元気でしたか…」

「うん。彼の経営する神奈川県の会社にも電話して”本人確認”してみたから間違いない。あれから4か月…。逆算すればすでに”ゴール”してるか、まだでもそう遠くはないだろう。こうなったら、毎日生存確認して奈緒子さんには連絡するよ」

「お願いします…」

”お父さん…、何とか水野さんが突破できるように、一緒に祈っていてね…”

和田とのケータイを切った奈緒子は、思わず目を閉じてそう念じていた。


***


それからさらに半年が過ぎた、ある晴天に恵まれたハナ金の夜7時過ぎ…。
ここ東京都内某所の繁華街は、人の活気で溢れていた。
そんな一角の某居酒屋もまた、まさに満員御礼状態であった。

この店は女性客も多く、今も一番奥の個室では4人のOLが女子会の真っ最中だった。

「じゃあ、その開ずけの手紙をもらった人は、要は封を開けなきゃいいんだ。そうすれば、逆恨みを買ってる相手からの呪いはかけられない訳ね」

「でもさあ…、それ、ずっとそのままで持ってなきゃいけないの?そうだとしたら、呪いが消えたってことにはならないでしょ。とりあえず、フタしてる状態ってことにすぎないじゃん」

「ああ、だからね。手紙を捨てるだけなら誰かに拾われて開けられるかもしれないし、破ったんじゃあ、もうそれだけで開封に当たるから、呪いが解き放たれちゃう。だから、火をつけて燃やしちゃえばいいらしい。呪いは文字通り灰となって消滅しちゃうから」

「なんか、簡単だね。それが開けずの手紙だとわかっていればだけど…。聞いた話だと、開けずの手紙って、差出人が書かれてないのケースが多いらしいよ」

「とにかく、怪しい手紙はやたらに開けられないわね。第一、人に恨み買ってる覚えなんかなくても、逆恨み程度なら、自分の身に覚えのないことでいくらでもあるよ。逆に、そこんとこが恐いよねー」

「言えてる。呪う側の動機、めちゃくちゃハードル低いって」

ー一同頷くー


***


「それでね、その手紙の呪い…、最近はどっとバージョンアップして、焼却しても呪いが消えない強力版も流通してるようなんだわ。なかでも、封筒の閉じてある部分に赤いシミが滲んでるのはかなりヤバイらしいよ」

「私も聞いたわ。そのシミ、人間の血のりだとか…。手紙届く前日に死んだ、呪い念じた当人の。それで、その血のりは”生きてて”、何日かすると封を開けちゃうみたいだよ、血が。もちろん、焼却も効き目なしで呪いもハンパないらしい」

「どんな?」

「なんかね、自殺するまで、毎晩、殺しに来るんだってよ。夢の中に現れて。それ、100晩耐えることができれば呪いは終わるけど、大抵は途中で気が狂って自殺よ。でも、それまで殺された数だけ、自分が死ぬ前に開けずの手紙を逆恨みのある人に送らないと自殺もできないんだってさあ」

「それ、最強に怖いって…」

「でもね…、いくら最近は自殺が多いって言っても、そんなのホントなら、アッという間でしょ。インフルエンザ並みにパンデミックだよ。ちょっとガセっぽいよ、その最新ネタ…」

「まあ、所詮、都市伝説だからね。そんなとこでしょ」

ー一同笑ー


このところ、東京近郊ではこんな会話が良く交わされていた…。

一方…、この店のカウンター席では年配の男性客二人が一杯やっている‥。